筆者は学生時代に生薬学を学ぶ中で、国内の生薬産地として、故郷である長野がたびたび挙げられていることに気づきました。子供の頃にその学習機会をもっと活かせばよかったと、今でも少し後悔しますが、幼少期、祖父母の家でアンズの収穫作業を手伝った記憶や、アンズ畑から響く蝉の声は鮮明に思い出されます。今回は長野のアンズと生薬としての杏仁についてご紹介いたします。やや古い生薬学の教科書には、国内の杏仁の産地として長野が記載されています。長野市の南側にある千曲市の森地区が主なアンズの産地で、「あんずの里」と呼ばれ、現在も果樹としての栽培が盛んです。春には美しいアンズの花が咲き誇り、夏には上品な甘さの果実やジャムが楽しめます。本地域はかつて真田家の松代藩に属しており、宇和島藩の伊達家から嫁いだ豊姫が故郷のアンズの種を持ち込んだことが、アンズ栽培が始まったきっかけであるという伝承があります。その後に松代藩の特産物として奨励され、国内有数の産地に成長しました。『和漢三才図会』(1713 年)には「杏は山林及び家園に之皆有り、信州に最も多し。而して杏仁を出して、他邦に販ふ。」と記載があり、薬用としても広く知られていたことがうかがえます。しかし、食用として果肉の大きな品種が求められるようになって、品種改良が進んだ結果、萎びた種子が生じるようになり、国内で生薬として利用できる杏仁は生産されなくなったようです。祖母に聞いてみたところ、アンズの種を薬として使うことを知っていましたが、長野産の杏仁が失われて長い期間が経過していたためか、生薬への加工や生産実態については覚えていませんでした。また、実際に果樹用アンズの種を割って種仁をとりだしてみましたが、小さく薄いものでした。よく肥厚した大粒が良品の杏仁とされますが、果樹用は品質が低くなるようです。残念ながら長野産杏仁の歴史は途絶えてしまいましたが、現在、弊社で使用している杏仁は実がしっかりと肥えた良質なものを厳選しております。エキス製剤として安心してお使いいただける品質にこだわり、安定した製品をご提供いたします。(コタロー通信より)
長野のアンズと杏仁について・・・コタロー通信
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