喉の痛みや発熱、赤く腫れる皮膚疾患など「熱」を感じる不調は季節を問わず身近なものです。こうした症状に対するため、中医学では「清熱」(熱の邪気を取り除き熱を冷ます)という治療法が伝えられ発展してきました。金銀花はその代表的な生薬の一つです。白から黄色へと色を変えるこの花は、炎症や腫れを和らげる働きを持つため古くから用いられています。
金と銀を宿す可憐な花
「金銀花」はスイカズラ科の植物で、寒い冬でも葉が落ちず越冬することから別名を「忍冬(にんどう)」と言います。日本、朝鮮半島、中国の東アジアに分布するつる性の常緑低木で、初夏に葉の付け根に一対の花を咲かせます。芳香性の高い花は最初は白く次第に黄色に変化し、黄色(金)と白(銀)の花が混在することから「金銀花」と呼ばれるようになりました。
「清熱」の代表的生薬
金銀花の生薬としての特徴は、熱による炎症を取り、体内に生じた熱毒などの邪毒を排除する「清熱解毒」作用に優れていることです。黄連や黄芩などの清熱瀉火(せいねつしゃか)の生薬とは異なり、胃腸への負担が少ないことも特徴の一つです。応用範囲が広く、風邪の初期症状(発熱、喉の腫れや痛み、口渇)目の痒みや充血、局部が赤く腫れて熱や痛みを伴う皮膚疾患(おできなど)、乳腺炎、下痢(熱毒による出血性の下痢)、膀胱炎などに用いられてきました。時代とともにその主な適応症は風邪、温病(うんびょう)などの外感熱病から各種の炎症性疾患や感染症の治療へと広がり、現代の中医学・薬学でも抗菌、抗ウイルス作用を持つ生薬として高く評価されています。
「温病学説」と金銀花
清代の医師・陳士鐸(ちんしたく)は『洞天奥旨(どうてんおうし)』で、瘡瘍(感染を伴う化膿性の皮膚疾患)の治療において、「金銀花は火熱の毒をよく除去し、気血を消耗させず、陰陽の証を問わず使用できる」と述べ、さらに「多量に使用すればその効果も大きい」と記しています。中国では明から清代にかけて「温病」と呼ばれる急性の伝染病が繰り返し発生し流行しました。明代の医師・呉有性(ごゆうせい)は温病学を初めて体系的にまとめた『温疫論』(1642年)を著し、のちの時代の温病学説の発展に多大な影響を与えました。さらに清代の医師・呉瑭(ごとう)呉鞠通(ごきくつう)は『温病条辨(うんびょうじょうべん)』において、温病を九種(風温、温熱、温疫、温毒、暑温、湿温、秋燥、冬温、温瘧(おんぎゃく)に分類し、その病因や症状、治法などを詳しく論じています。その中で金銀花を配合した「桑菊飲」や「銀翹散」などの処方が考案されました。
このように温病学説が最も発展した18世紀後半には、金銀花は温病(疫病を含む)の治療に欠かせない生薬として用いられてきました。
腫れと化膿に用いられる処方・・・五味消毒飲。
「五味消毒飲」は赤く腫れて熱を持つ「できもの」や化膿性の皮膚疾患に用いられてきた処方で、清代の医書『医宗金鑑』に記載されています。金銀花を中心に蒲公英、紫花地丁など5種類の生薬から構成されています。胃腸に負担をかけにくく、正気(邪気に対する抵抗力のようなもの)の不足でも使用できる清熱解毒の処方で、中国南方では暑熱をしのぐ養生の一つとして涼茶という飲料としても親しまれています。
中医学では、風邪の初期症状により使用する薬が異なります。性質が寒性の金銀花は風熱タイプの風邪に使用される生薬のひとつです。
・風寒タイプ(青い風邪):寒気が強い、発熱、鼻水が透明、無汗、頭痛、節々の痛み、首や肩のこわばり・・・葛根湯、桂枝湯など
・風熱タイプ(赤い風邪):発熱、のどの痛み、口の渇き、鼻水が黄色いっぽい、発汗・・・銀翹散、金羚感冒散
金銀花
別名:忍冬花、銀花、金藤花、双花、二花 など
性:寒
帰経:肺、胃経
効能:清熱解毒、涼散風熱
西太后と金銀花
清朝末期、女官、徳齢(とくれい)の回想録によれば、生花を好んだ西太后は散策中や食事の際、しばしば新鮮な金銀花やジャスミン、薔薇などの花を数輪摘ませて茶碗に浮かべ、茶碗の蓋を取ってほのかな花の香りを楽しみながらお茶を飲んだ様子が記されています。また夜には、金銀花の花露(蒸留水)を肌に塗布する美容法も試みていたと伝えられています。