咽喉頭異常感症という病名の定義は
「咽喉頭異常感の訴えがあるにもかかわらず、通常の耳鼻咽喉科的視診で訴えに見合うだけの異常所見を局所に認めないもの」とされています。
咽喉頭異常感症は 1 つの症候名にすぎず、後日種々の原因疾患が発見されるものも含みます。
このことから、精査しても明確な所見を見いだせないものを真性の咽喉頭異常感症とし、
原因となる器質的変化を後に明確にできたものを症候性の咽喉頭異常感症としています。
50 代や女性に多く、「咽喉頭に何かつかえる感じがする」と訴えて耳鼻咽喉科を受診する患者の頻度は、年々増加傾向にあるそうです。
症候性咽喉頭異常感症の原因は、局所的、全身的、精神的の 3 つに分類されます。
なかでも局所的な原因は全体の 80%を占め、
6 つに分類(1慢性炎症・外傷、2形態異常、3腫瘍、4甲状腺疾患、5食道疾患、6アレルギー)されています。
従来、慢性炎症(慢性副鼻腔炎、慢性扁桃炎、慢性咽喉頭炎)が咽喉頭異常感症の原因のほとんどといわれていましたが、最近では胃食道逆流症(GERD)が原因の多くを占めるようになり、さらに近年、喉頭アレルギーも注目を集めるようになってきました。症候性、真性いずれにしても西洋薬だけで治療が難しい場合もあり、漢方薬の単独あるいは併用で有益な治療効果をもたらすことも報告されています。例えば、GERDであれば、主たる西洋薬はPPI(プロトンポンプ阻害薬)とH2ブロッカーですが、これらで効果が不十分な場合、六君子湯や半夏瀉心湯も用いられています。
また、喉頭アレルギーには抗ヒスタミン薬が一般に用いられますが、喉頭アレルギーの咳には麦門冬湯、咽喉頭異常感には麻黄附子細辛湯の効果も注目されています。
また、明確な原因を特定できない真性の場合、半夏厚朴湯や柴朴湯(小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方)などが用いられています。漢方では咽喉頭異常感を古来より、梅核気あるいは咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)と表現し、気鬱(きうつ)と同時に痰が咽喉にとどまり起こる異物感と捉えています。治療には気の巡りをよくする方剤がよく用いられ、半夏厚朴湯にはふさがって停滞している気を開放し、痰を散らす作用があります。また、咽喉頭異常感だけでなく、胸のつまり感、動悸、めまい、不安などの神経症的訴えも半夏厚朴湯の使用目標です。また、女性であれば、冷え症、月経困難症、更年期症状の程度から血の巡りを改善する駆瘀血剤を使うと有効な場合もあるようです。
六 君 子 湯:胃もたれ、胸焼け
半 夏 瀉 心 湯:悪心、腹鳴、心窩部の痞え
麦 門 冬 湯:のどの渇き、激しい咳込み
麻黄附子細辛湯:のどのイガイガ感や掻痒感
半 夏 厚 朴 湯:不安などの神経症的訴えを伴う咽喉頭異常感
柴 朴 湯:慢性炎症、気管支喘息
加 味 逍 遙 散:更年期症状、不定愁訴 など…
(コタロー通信No450)