月経前症候群と漢方
近年、月経前症候群(PMS)がインターネットや女性雑誌等で取り上げられてきております。
一般の方における認知度が上がってきたこともあり、患者数は増加傾向にあります。
女性において月経前に周期的に症状の増悪をきたす疾患は多くありますが、
PMSは、原疾患なしに月経前のみに不調を認め、月経後には症状が消失する病態です。
日本産科婦人科学会による産科婦人科用語集・用語解説集でも、
「月経前、3~10 日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの」と定義されています。
PMSの身体症状は、浮腫など卵巣ホルモンの生理作用によるところが大きく、精神症状の成因については明らかではありません。
主な仮説としては脳内における神経伝達物質セロトニンの低下、黄体ホルモンあるいはその代謝物の増加と消退、GABAニューロンの相互関連、グルタミン作動神経の挙動などが考えられています。
治療には有酸素運動や生活習慣改善などの非薬物療法のほか、鎮痛薬、SSRIや低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP)によるホルモン療法などが行われています。
漢方医学的には、黄体期は妊娠を前提として気血が下方に誘導される時期であるため、
ベースに
「気滞(きたい)」、
「瘀血(おけつ)」があると様々な症状が発現すると考えられます。
(からだの気(エネルギー)の巡りが悪くなる状態が気滞)
(血の流れが滞った状態、血液の汚れ、血液ドロドロ状態が瘀血)
PMSは自覚的症状が多く、特に精神症状の訴えに関してはよく状況を聞くことが重要です。
症状としてよくみられるイライラは、日常の出来事が誘因となって起こる感情であり、自然な心の動きです。その本質は「思うようにいかない」という気持ちであり、イライラには相手がいます。その閾値の高低、何に(誰に)対してイライラするか、またそれを表出するのか我慢するのか、などは本人の気質・性格、成育歴、環境因子により変化する可能性があります。
PMSに用いられる主な漢方薬のうち、逍遙顆粒、芎帰調血飲第一加減はイライラ、易疲労の他、多愁訴例に用いられる代表的処方といわれます。
また、抑肝散加陳皮半夏も近年、認知症の周辺症状(BPSD)における易怒・興奮性の病態を改善する作用が注目され、月経前の易怒性にも用いられます。
【参考】コタロー通信ナンバー412、塩田敦子.産科と婦人科.8 号 (39):957-961.2019