葛根について
秋の訪れとともに涼しくなってまいりました。晩夏、初秋に河原沿いなどを歩いていると甘い香りがしたことはございませんか?
その香りは大きな葉の裏に控えめに花をつけた秋の七草であるクズのものだったかもしれません。今回は、クズの根を基原とする生薬、葛根について紹介いたします。
『日本薬局方』において、葛根の基原は「クズ Pueraria lobata Ohwi の周皮を除いた根」と規定されています。
クズはマメ科のつる性木本であり、秋の七草とはいうものの木に分類されます。万葉集では「ま葛延ふ」や「延ふ葛の」と詠われ、激しい恋心をつるが繁茂し伸びる様子に例えたようです。家畜飼料や土壌流出防止を目的にアメリカなどに導入されましたが、現在は外来種として野生化していることからもその繁殖力の強さが伺えます。
地下部は澱粉を取り葛粉としても利用されます。葛粉をお湯で溶いた葛湯は民間療法として初期の風邪に使われ、古くからその薬効は認知されていたようです。また、花は二日酔いに効くとされ、クズが身近な薬用植物であったことがわかります。葛根は頭痛、項背を治す作用に優れ、発汗作用、止瀉作用を持つ辛涼解表薬です。感冒薬として著名な葛根湯は桂枝湯に葛根と麻黄を加えた処方であり、両処方の使い分けのポイントとして、発汗があるかどうか、項背部に強ばりがあるかどうか、が挙げられることからも葛根の作用がよくわかります。また、葛根黄連黄芩湯などでは止瀉や消炎、麗澤通気湯加辛夷などでは鼻炎やそれに伴う頭痛の解消を担っています。
季節の変わり目は体調を崩しやすいものです。頭痛、鼻炎、感冒、筋の緊張など、症状に合わせて葛根配合処方をご活用いただければ幸いです。(コタロー通信)