夏バテ、多汗など、夏に使われるイメージが強い麦味参顆粒(生脈散)ですが、気虚や陰虚(津液の不足)の病態に対して幅広く用いることができる便利な処方です。特に空気が乾燥する秋・冬は陰虚が悪化しやすく、呼吸器系の症状などに悩まされることも多くなります。呼吸器系の症状は体力を消耗するため、気虚の悪化にもつながります。今回は日本の古典から、呼吸器系の症状への応用や夏以外の季節への応用について記載されたものをいくつかピックアップします。これからの季節に麦味参顆粒(生脈散)を使用してみてはいかがでしょうか?
1 『校正方輿輗(こうせいほうよげい)』 有持桂里(1758-1835)
「喘哮」の項に「此方哮喘の壊症、虚候をあらはす者に良し」とあり、難治性の喘息などで虚証の人に用いるとよいということが書かれています。「喘哮」の項に収載されていることから、麦味参顆粒(生脈散)が呼吸器症状への主要処方の一つと位置づけられていることがうかがえます。長期にお悩みの呼吸器症状などへの応用も検討してみてもいいかもしれませんね。
2 『牛山方考(ぎゅうざんほうこう)』 香月牛山(1656-1740)
「此方は五心潮熱、咳嗽、短気、脉虚する者を治するの妙剤也」と、五心(手のひら、足の裏、胸中)の熱感があって咳や息切れがあるようなものに用いることが書かれており、咳や息切れが麦味参顆粒(生脈散)の主目標になりえることを示唆しています。
また「冬月老人喘咳元気虚弱に属する者に炮姜を加へて其効神の如し」とあり、冬季に高齢者が呼吸困難や咳があって体力低下する場合には、炮姜を加味すると大変良いということが書かれています。炮姜は現在の日本ではあまり使われませんが、乾姜が比較的近い薬効を持つと考えられますので、冬季の呼吸器症状悪化とそれに伴う体力低下には麦味参顆粒(生脈散)と乾姜配合剤との組み合わせというのも効果的かもしれません。
3 『方彙口訣(ほういくけつ)』 浅井貞庵(1770-1829)
「暑中りに限らず年中心火盛んで肺金の乾く人に好ひぞ再煎(二番煎じ)して老人小児も茶の代りに飲み宜きなり」とあり、心火が過剰なために肺が乾く(気道乾燥など)ものには季節を問わずよいと書かれています。二番煎じとはいえ「茶の代り」に飲むとよいとされていますので、日常的かつ長期に服用しやすい処方であると解釈することもできます。
4 『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』 浅田宗伯(1815-1894)
「暑中には限らず一切元気弱き脉の病人には医王や真武に此方を合して用ゆべし」とあり、夏場に限らず脈に力がないような虚弱な人には、医王湯(補中益気湯)や真武湯との合方が効果的であることが書かれています。補中益気湯や真武湯は麦味参顆粒(生脈散)と使用目標が類似していることから、しばしば鑑別(使い分け)の対象にもなりますが、組み合わせの相手としても相性が良いようです。
コタロー通信