お知らせコラム

食べ過ぎなどによる「食物の停滞」に加味平胃散

「食欲の秋」ともいわれるこの季節、美味しいものをつい食べ過ぎてしまいます。
また、秋の夜長でゆっくりしすぎて夕食の時間が遅くなってしまう人もいらっしゃるかもしれません。しかし、食べ過ぎや遅い時間の食事は食物の停滞(宿食・食滞)を生みやすくなります。
そのような食物の停滞におすすめしたい漢方薬が加味平胃散です。
加味平胃散の原典は『医方考』(1584 年刊・呉崑(ごこん)の著)で、「宿食化さず、呑酸呃臭し、右関脈滑のもの、この方之を主る(食物の停滞が消えず、酸っぱい水が上がってきたり、臭いを伴うしゃっくりがあったり、右の関脈が滑脈であったりするものを主治する)」と記載されています。なお、脈証については、上記条文の後に、「右の関脈は脾胃の状態を反映し、滑脈は食の停滞を表している」と解説されています。匙倶楽部商品の加味平胃散の生薬構成は、平胃散に神麴・麦芽・山楂子を加えたものとなっています。原典の『医方考』では山楂子は配合されていませんが、例えば、『玄冶方考』(1672 年刊・岡本玄冶(げんや)の著)では山楂子が配合されており、比較的早い段階から山楂子を加える工夫は行われていたようです。神麴・麦芽・山楂子はいずれも「消導薬」や「消食薬」と呼ばれる生薬で、消化を促進し飲食物の停滞を解消するような働きがあるとされています。
一般に、神麴・麦芽は穀類、山楂子は肉類による食滞(飲食物の停滞)を解消するとされており、山楂子を配合することでより幅広く食物の停滞に対応できると考えられます。
ベースとなっている平胃散(蒼朮・厚朴・陳皮・生姜・大棗・甘草)は脾胃の湿を除く処方として知られています。
脾胃に湿が停滞する原因として、大きく
1過飲食などにより湿邪が侵入することによる停滞(実証)と、
2脾胃気虚のために水分を処理しきれないことによる停滞(虚証)の 2 つがあります。
平胃散はこのうち1の治療処方です。
これに関連して、『方意弁義』(1703 年刊・岡本一抱(いっぽう)の著)には平胃散の生薬構成について「半夏・茯苓も脾胃の湿を除く生薬だが、これらは脾胃気虚のタイプに用いる生薬なので、平胃散に配合していない」という旨が記載されています。この視点は、例えば平胃散と二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・生姜・甘草)の鑑別をする際にも応用できます。
どちらも胃内停水などに用いられますが、背景に胃腸虚弱がある場合は半夏・茯苓が配合されている二陳湯を、平素から胃腸が丈夫であれば平胃散を選択するという視点が得られるのです。
以上のことから、加味平胃散は「平素は胃腸が丈夫(少なくとも胃腸虚弱ではない)だが、食べ過ぎ・飲み過ぎなどによって脾胃に湿も食物も停滞してしまった場合に、それを解消してくれる処方」であると考えられます。美味しいものが多いこの季節の胃腸のケアに、是非ご活用ください。
(コタロー通信464)

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