お知らせコラム

便秘・イレウスと漢方

昔から快食、快眠、快便は健康のバロメーターといわれています。
しかしながら、近年、食生活の欧米化、ストレス社会、運動量の減少、高齢化などによって、便通異常を訴える方は増加しつつあります。
2016 年度国民生活基礎調査によると国内における便秘の有訴者率は
男性 2.5%、女性 4.6%では20~60 歳で圧倒的に女性が多く、60 歳以降は男女とも加齢に伴って増加し、80 歳以上の高齢者では男女比がほぼ 1:1となっています。
1998 年度の同調査による有訴者率は男性 1.9%、女性 4.7%であり、男性では明らかに増加傾向にあります。機能性便秘に対する治療の基本は、生活指導、食事療法、薬物療法の3本立てといわれています。
日本人の平均食物繊維摂取量は、1950 年頃には 1 人あたり 1 日 20gを超えていましたが、穀類・いも類・豆類の摂取量の減少に伴って低下しています。
最近の報告によれば平均摂取量は 1 日あたり 14g 前後と推定されています。
なお、食物繊維摂取量増加による慢性便秘症状の改善効果は、大腸通過時間が正常範囲の患者に限られており、大腸通過時間が延長した患者には効果がみられないともいわれています。すなわち、慢性便秘患者の治療は生活指導、食事療法のみでは不十分なこともあり、薬物治療の追加が必要になってきます。
また、便秘にしばしば合併する症状に「腹部膨満感」があります。アジア人は欧米人と比較して腹部膨満感の合併率が高いともいわれており、便秘症状と共に治療に難渋する症状の一つと考えられています。
慢性便秘に対する漢方治療では、腹部膨満感など便秘に合併した症状も同時に治療ができます。
一般的に患者を「虚証・実証」に分類し、実証の便秘では大黄や芒硝を含む処方を用い、虚証の便秘に攻下薬を用いると強い腹痛や激しい下痢を引き起こすことが考えられる為、消化管運動機能を改善させ、乾燥した便を潤す、芍薬、杏仁、麻子仁などの生薬が配合された処方が用いられます。
虚証の便秘で、腹部膨満感や冷えがある場合に用いられる「大建中湯」は、術後のイレウスの予防や改善にも頻用されています。術後イレウスは、術後早期に生じる麻痺性イレウスと暫く経過して生じる癒着性イレウスに分けられます。術後に発症する麻痺性イレウスの発症機序には、手術ストレスにより生じる交感神経優位な状態から腸管運動が抑制される機序と、手術中に腸管壁の炎症が惹起され、平滑筋機能が抑制される 2 つの機序が考えられています。
一方の癒着性イレウスの発症機序についてはいまだ不明な点が多く、術中の物理的刺激、乾燥による要因以外に、炎症を起こした腸管同士や他臓器との間の接触時間の延長により癒着が発生するリスクが高まることも経験的に知られており、早期離床が癒着性イレウス予防に効果があると考えられています。つまり、術後の麻痺性イレウスの遷延を予防することが、癒着性イレウス発症のリスク軽減にも繋がります。

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