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『万病回春』に見る、耳聾(じろう)・耳鳴の漢方

耳聾(聴力障害)・耳鳴の代表処方といえば、滋腎通耳湯です。原典の『万病回春』に「耳は腎の竅(あな)、腎虚するときは耳聾して鳴る」とあり、腎虚による耳聾・耳鳴の治療処方として記載されています。構成上は四物湯に黄柏・黄芩・知母・柴胡・白芷・香附子を加えたものとなっており、四物湯の補血作用で腎を補い(精血同源の考え方)、柴胡・芍薬で肝を調え、白芷・香附子で理気や開竅を行い、知母・黄柏で虚熱を冷ますという働きがあります。これにより、条文にあるような腎虚による耳聾・耳鳴のみならず、肝鬱気滞による耳聾・耳鳴にも対応できるようになっています。また、「胸膈快からざるには、青皮、枳殻少し許りを加う」とあり、胸脇苦満がある、肝鬱が強い、ストレスが多いといった場合には、青皮・枳実が配合された柴胡疎肝湯を加えてもよいと考えられます。『万病回春』の耳病門には滋腎通耳湯以外にも耳聾・耳鳴の処方が収載されています。その中からいくつかを抜粋してみます。
1 竜胆湯(黄連・黄芩・山梔子・当帰・陳皮・天南星・竜胆・香附子・玄参・青黛・木香・乾姜)
「左耳の耳聾は怒りが胆火を動かすためである」として、この処方が挙げられています。左耳だけ聴力障害となるような場合は候補となりえます。竜胆瀉肝湯合香蘇散などが、ある程度近い構成になると考えられます。
2 滋陰地黄湯(山薬・山茱萸・当帰・芍薬・川芎・牡丹皮・遠志・茯苓・黄柏・石菖蒲・知母・沢瀉・熟地黄)
「右耳の耳聾は色欲が相火(邪熱)を動かすために起こる」として、この処方が挙げられています。右耳だけ聴力障害となるような場合は候補となりえます。知柏地黄丸合四物湯などが近い構成になると考えられます。
3 防風通聖散
「両耳がどちらも耳聾となるのは味が濃い食事で胃火を生じるからである」として、防風通聖散を治療処方として挙げています。両耳の聴力障害で実熱や食の不摂生がある場合は、防風通聖散も選択肢になりうると考えられます。
4 六味丸・知柏地黄丸
「耳聾、耳鳴を治す方」として、六味丸やその加味方も記載されています。「腎虚の耳聾には、六味丸に黄柏、知母、遠志、石菖蒲を加えたものを用いる」とあり、知柏地黄丸に近い処方を挙げています。
また、「耳鳴には六味丸を用いる」とも記載してあります。「蝉が鳴くような耳鳴があって四物湯を服用したがかえって悪化してしまった者がいた。足の三陰の虚と考えて朝方に六味丸を、食前に補中益気湯を服用させたところすぐに治癒した」という症例も記載されています。
滋腎通耳湯を中心に、『万病回春』の知恵を耳聾・耳鳴に是非ご活用いただければ幸いです。
(コタロー通信)

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