夏の痛みにも独歩顆粒(独活寄生丸)
足腰の痛みによく用いられる独歩顆粒(独活寄生丸)。
原典とされる『千金方』には「腰背痛を治す。腰背痛は皆猶腎気虚弱にして冷湿地に臥し風に当り得るところなり」とあり、冷え(および湿気)が関与するような腰背痛に用いることが書かれています。
また細辛や桂皮をはじめ、構成生薬の多くが温性です。こうしたことから、独歩顆粒(独活寄生丸)は、冬などの寒い時期の痛みによく使われるイメージがあるのではないでしょうか?
一方、江戸時代の日本の医家である香月牛山(1656-1740)の『牛山方考』には
「血虚し風湿に中り或は腎気虚弱の人、房後湿地に臥し或は夏月涼を取ること過多なれば、痛風、脚気、腰痛、背痛、癱瘓(たんたん)の症となる。これを治すに独活、桑寄生、牛膝、杜仲、秦艽、細辛、肉桂、茯苓、人参、防風、甘草を加て独活寄生湯と名付く。其効神の如し」とあります。ここで注目したいのは「夏月涼を取ること過多なれば」という記述です。
つまり、夏場でも体を冷やしすぎてしまうと手足の痛み、腰背痛、手足の麻痺(癱瘓)などを起こすので、そういう場合は独歩顆粒(独活寄生丸)の適応だと述べているわけです。現代の夏は冷房がきいていること、冷飲食の機会が多いことなどから、「夏月涼を取ること過多」となるリスクは江戸時代よりもはるかに高いと考えられます。そのようなことから、香月牛山のこの条文はよく参考にすべきと考えます。
また夏は汗をかきやすく、腠理が開いた状態となっており、風寒邪などの侵襲を受けやすくなっています。冷房による冷たい風は、その性質上、風寒邪そのものとも考えられますから、現代の夏は風寒邪の侵襲を非常に受けやすい状況にあるとも言えるわけです。風寒邪の侵襲を受けると邪が経絡に入り込み、経絡の巡りを阻害して痛みを生じます。このような場合に有効なのが祛風作用を持つ生薬です。独歩顆粒(独活寄生丸)に配合されている唐独活・防風・秦艽などにはこの祛風作用があるため、独歩顆粒(独活寄生丸)は風寒邪の侵襲による痛みに効果的な処方となっています。冷えによる腰痛に用いる処方として八味地黄丸や牛車腎気丸も挙げられますが、祛風作用が弱いため、外部からの風寒邪の侵襲による痛みには独活寄生丸より効果が弱いと考えられます。一方で風寒邪の侵襲を受けやすい背景には、腎虚・気虚・血虚などの「虚」の病態があります。そうした病態に対応するため、独歩顆粒(独活寄生丸)には桑寄生・杜仲・党参、地黄、当帰などの「補う」働きを持つ生薬も豊富に配合されています。つまり独歩顆粒(独活寄生丸)は、経絡に侵襲した風寒邪を駆逐する働きと、風寒邪の侵襲を防止する働きの両方を併せ持つ優れた処方なのです。
以上、独歩顆粒(独活寄生丸)は古典(『牛山方考』)の記述からも、漢方理論的な考え方からも、夏場の腰や背中・手足などの痛みに有用な処方だと考えられます。この夏の痛みに、独歩顆粒(独活寄生丸)を積極的にご活用ください。